「投球・送球のレベルアップ」をしていく上で、ケガに対する基本的な知識をもっておくことは最も重要です。
技術面をレベルアップするためには、そこに直結する情報や経験を伝えていくことはもちろん大切なことです。しかし、「技術的なレベルアップ」ばかりに偏ると、練習やトレーニングの回数をこなしてもなかなか上達しなかったり、悪いフォームで継続して練習すると結果が出ないばかりか、故障のリスクも高くなります。
場合によっては取り返しのつかない故障に繋がることもあります。
「技術的なレベルアップ」を否定する訳ではありませんが、頑張っているのに思うような成果が出ていない選手は今回お伝えする情報を練習に取り入れて少しでも役立てていただければと思います。
【 目次 】
野球に圧倒的に多いケガの種類
スポーツによるケガの種類は大きく
・衝撃で受傷する「外傷」
・動作を繰り返すストレスにより徐々に発症する「障害」
の2つに分けられます。
そして野球は「外傷」より「障害」が圧倒的に多いスポーツになります。
野球は、コンタクトプレー(本塁のクロスプレーなど)は1試合でもあるかないかで、全力疾走やフルスイングなどでの肉離れ、ねん挫などのケガも年間を通してそう多くはありません。
日常生活では比較的「外傷」が多いことからも、特に野球経験のない保護者の方は「外傷」による危険性を感じている方が多くいると感じられます。
良い投球フォームの必須条件
良い投球フォームの必須条件は「障害」を起こさない=「ケガをしにくい」動作をすることです。
当然ですが、「ケガ」や「疲労」が少なければ練習をたくさんこなすことができるので、レベルアップできる確率は高くなります。
小・中学生の多くは、「フォーム不良」による投球動作の繰り返しで、発育期の身体の弱い部分にストレスが少しずつ蓄積されていき、「投球・送球の障害」を発生するケースが多くなります。
年齢関係なく、特に投手は高いレベルで投球動作のパフォーマンスが必要とされます。
投球・送球は下肢(かし)→体幹→上肢(じょうし)につながる全身の運動連鎖になります。
その運動連鎖を少しでも妨げるような問題があれば、確実にパフォーマンスは下がります。
そして、連鎖不順のパフォーマンス低下を補うために「過度に負担のかかった箇所」に様々な障害が引き起されます。
経験や技術の乏しい子どもが、能動的にフォームを改善していくことは難しいことですが、身体が成長してフォームがある程度固まる前段階で対策を取っていくことは重要です。
肘への負担が「ボール60個分」
多くの野球選手が肘に痛みを感じるタイミングは
・胸を張ったとき
・リリースのとき
の2つでした。海外の研究でも同じような研究報告があり、遠心力が増して肘が外側に引っ張られる力が最も大きいシーンで痛みを訴える選手が多いと報告されていて、外力が最もかかるときの肘への負担をボール何個分に該当するのかを比較されていたので図にしてみました。
少年野球選手の場合は身体の開きが早いなどの、伝達効率の悪いフォームで投球すると約2倍の負荷がかかっています。力強いボールを投げることができない悪いフォームの小学生でも、プロ野球選手の数値に近い負担があります。
プロ野球選手はフィジカルが強く、伝達効率が良いフォームですが、「出力」が高くなり過ぎてその負荷に靭帯や骨が耐えられなったり、連戦などで消耗が激しく疲労が蓄積することでケガに繋がるケースが多いので、少年野球の悪いフォームとは事情が異なります。
「硬球」の平均の重さにすると145gになります。
・60個分で約8,7kg
・120個分で約17,4kg
になります。
投球フォームは時間にすると、本当に一瞬になるので痛みがあっても感じにくいところもあると思いますが、少し甘く数値を見てもかなりの負荷がかかっていることが分かります。
少年野球で使用する「J球」は重さが硬球の約-16gになり
・60個分で約7,7kg
・120個分で約15,4kg
になります。
ボールの重さや負担の程度を知り、悪いフォームがどれくらい良くないことなのかを把握することは、「投球・送球フォーム」の改善に向けて「練習」や「トレーニング」をはじめるキッカケや、継続するための動機になります。
また、日頃から身体づくりやケガの予防に気を使っている「プロ野球選手」でも、ケガをしてしまうことがあります。
たくさん知識をつけて、しっかりトレーニングをしても「絶対にケガをしない」という保証はありませんが、日頃から出来る限りの準備をしてくことは、「フォームが良くない少年野球の選手」は特に意識してケアを実践していく必要があると思います。
障害の代表「野球肘」「野球肩」
「障害」の代表的なものが「野球肘」「野球肩」になります。
成長段階に個人差はありますが、「肘の内側の骨」が成人に近い形になるのは15歳前後と言われています。
この上腕骨の肘部分の骨は12〜13歳くらいから閉じ始めて中学3年生になる15歳頃に閉鎖が完了するようです。
特に成長途中の肘は弱い構造になり、ケガをしやすい状態となります。
練習での投球数などに、無理をしないように注意する必要はありますが、「肘」「肩」だけに多くの不具合があると思われがちですが、必ずしも痛みなどの症状がある箇所だけの問題ではない場合がたくさんあります。
その根本的な原因は「股関節の硬さ」や「肩甲骨や体幹の動きの悪さ」であることが多いことが明らかになっています。
「成長段階」を把握することで、小学生なら「投球数」など「肩」「肘」に直接無理をさせないことはもちろん、根本的な原因を理解しておくことで、身体全体のバランスケアへの考慮も必ず高まります。
肩甲骨・股関節の動きを予め良くする
投手にとって魅了の1つは「スピードボール」を投げることだと思います。その「スピードボール」を投げるために「股関節」や「肩甲骨」の動きは大事になりますが、それ以前に「ケガをしないため」に「肩甲骨の動き」「股関節の動き」を予め良くしておくことが大事だということを理解しておくことは重要です。
ストライクのスピードボールを投げることは高いレベルでそのバランスが求められます。
身体に「柔軟性」「筋力」「神経」などのバランスが悪ければ、理想の動作、成果は絶対に得られません。
これが、同じように動作のことを伝えても「出来る選手」と「出来ない選手」がいる原因のひとつで、小・中学生は特にフィジカル面での不足は避けられず、身体が成長し出来上がるのを待つことも大切になります。
繰り返しになりますが「出来ない」のは「センスがない」「下手だから」ではなく”出来ない身体になっている”可能性が高いからです。
「出来ない・動かない身体」を「出来る・動ける身体」に
ケガをしない身体づくりは「出来ない・動かない身体」⇒「出来る・動ける身体」にしてくれます。
ケガの予防を早期から徹底することができるようになると、知識も高まり、ストレッチなどのケアをする時間を積極的に取るようになります。練習やトレーニングの時間が長い割には、まだまだケアの時間が短いと感じるのが少・中学生の野球の現状です。
準備運動はしっかりできているなと感じることがありますが、練習後のケアは不充分な選手が多いと感じています。
ケア不足は「出来ない身体づくり」率先して取り組んでいるようなものです。
中学生までは徹底して「障害の防止」に取り組むことで、身体構造のこと、トレーニングの知識も確実にアップします。そして、それが1番の「出来ない身体」⇒「出来る身体」にする近道だったりします。
まとめ
遠回りになると思われそうですが、「ケガに関する知識」を高めることは「ケガの予防」にも繋がり、「正しいフォームづくり」に繋がります。
小学生は発育期となり、体力的・肉体的な部分で技術的なところがカバーできないことも多々あります。
その成果も高い確率で得ることができると実感しています。イチロー選手が現役時代に継続していた有名な初動負荷と呼ばれるトレーニングも「ケガの予防を徹底」し「実践」してきたことで成果をあげた成功事例の1つだと思います。
「投球・送球のレベルアップ」に少しでも役立ちそうなことがあれば取り入れてください。
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