「下半身を使ってボールを投げる。」野球の指導で良く耳にする言葉です。
そもそも「下半身を使ってボールを投げる。」とはどういうことなのでしょうか?
足に力を入れること?片足に体重をかけること?膝を曲げること?
今回は投球における下半身の使い方について詳しく説明していきたいと思います!
【 目次 】
投球において下半身はなぜ大事か?
現読売ジャイアンツピッチングコーチの桑田真澄さんはこの動画の中で次のようにおっしゃっています。
『君は逆立ちして2km歩ける?歩けない?じゃあ足だったら歩ける?歩けるよね。足の力ってすごく強いの。腕の力だと2kmも歩けない、弱いわけ。ボールは腕で投げるんだけど、強い足の力を使ったほうがいいボールを投げられる。』
これは桑田さんが小学生の子どもたちにもわかりやすく説明するために使っている例えですが無性に納得できました。
指導の際にはなぜこのようにしなくてはならないか?ということも同時にわかりやすく伝えることが理解を深めて実際にプレーや動きに取り入れていく中で大切なことですね。
みなさんもなぜ投球に下半身の力を使わなくてはいけないかがわかったかと思います。
投球における下半身の役割とは?
桑田さんもおっしゃっていたように基本的には人間の筋肉は腕よりも足のほうが強いです。
ですが実際にボールを投げるのは腕や手です。
では、下半身には実際どのような役割があるのでしょうか?
筑波大学体育系准教授 川村卓先生は
『(投球は)「下から上にエネルギーを伝えていく動作」』
と著書の中で述べています。
下半身の動きでしっかり力を作り出し、その力を上半身、そしてボールまでしっかり伝えることが下半身の役割になります。
<参考文献>川村卓『野球の科学』東京:SBビジュアル新書、2021年、65頁。
軸脚とステップ脚、それぞれの役割
軸脚は並進運動で体重移動をする際にしっかりと姿勢を保ち、力の方向を統一させる役割があります。
一方、ステップ脚は軸脚からの力を受け止め、体幹に力を伝えていく役割があります。
まずはそれぞれの役割と正しい使い方を理解したうえで投球に繋がるトレーニングをするように心がけましょう。
投球と重力の深い関係性
重力は地球にある全ての物体にかかっている力です。
つまり全員がこの重力という力を平等に利用することが出来ます。
軸足を倒し、上半身をまっすぐに保つことでステップ脚のお尻に重力が集中します。
車に乗っていて車が急ブレーキで止まろうとすると乗っている人の身体が前に投げ出されるのは想像できると思います。
この原理と同じで下に向かって重力がかかり、急にステップ脚でブレーキを踏んだイメージをしてください。
急ブレーキを踏まれ、投げ出されるのは上半身です。
この連動が上手くいくことにより上半身が加速して最終的に腕の加速に繋がります。
ヒップファーストの真実
〈ヒップファースト〉
投手の方であれば一度は耳にしたことがあると思います。
ですが本当にヒップファーストの言葉の意味を理解している方は何名いるでしょうか?
ヒップファーストの言葉のそのままの意味は
ヒップ=お尻
ファースト=最初に
つまり、体重移動の際に最初にお尻が出ていくということです。
ヒップファーストという言葉だけを知り、踏み出し足のお尻をホームに向けて出していこうとすると腰の高さが変わったり、余計な力が入ってしまい、かえって体重移動がスムーズでなくなります。
ヒップファーストはステップ足のお尻で作り出すのではなく、軸足を倒し、上半身が残ることで結果的にヒップファーストの形が作られるのです。
このヒップファーストの形が上手く作れるとお尻に上手く重力がかかります。
無理に形を作ろうとして、無駄な力を入れたりすることで力や重力が分散され、その後の「下から上にエネルギーを伝えていく動作」も上手く行かなくなってしまいます。
球速の出ている選手に共通する下半身の使い方
川村先生は『球速が速い投手はステップする脚の膝が自分のつま先よりも前に出ません。』と述べています。
実際にやってみて○の部分の筋肉を使っている感じがしました。
つま先より膝が前に出た時に力がかかるのは太ももの前側(大腿四頭筋)の部分でした。
大腿四頭筋は人体で最も大きくて強い筋肉です。
その大きくて強い筋肉をなぜ使わないほうが良いのか。
川村先生は次のように述べています。
それは投球が「下から上にエネルギーを伝えていく動作」だからです。必要以上に筋力を使ってしまうと、エネルギー伝達の順番がズレてしまうことになるからです。特に大腿四頭筋を使うと、膝の曲げ伸ばしが強調された動作になって、ステップした脚が着地したときには体重移動が終わってしまう可能性が高いのです。
そうなると、下肢でつくられたエネルギーを上肢に伝える前に体重移動が終わってしまいます。すると伝達されるエネルギーがほとんどなくなって、上半身に力を入れる非効率な投げ方になってしまうのです。
<参考文献>
1)川村卓『野球の科学』東京:SBビジュアル新書、2021年、65頁。
球速の出ている投手は効率良く上半身まで力を伝えられるような下半身の使い方が出来ているということですね。
下半身が使えていない=手投げ?
下半身が使えていない投げ方のことを「手投げになっている」と言ったりします。
その際に、「手投げになっているから下半身を使って。」とだけ伝えると多くの選手は膝を曲げて足に力を入れようとします。
これでは下半身が使えているとは言えません。
①ステップ脚を挙げた際に上半身が突っ込んでいる
②下半身の開きが早い
③上半身に力を入れるのが早い
このような投げ方はいわゆる手投げと呼ばれる投げ方になります。
①②は、ステップ脚が着地した時に回旋運動が出来ないため腕の力で投げるしかなくなるので、手投げになってしまいます。
下半身が使えず手投げになると肩や肘の負担も増えて怪我に繋がります。
正しく下半身を使った投球をすることで肘や肩の負担や怪我を減らすことができます。
球速の出ている選手が使っている下肢の筋肉
先程、川村先生が
「球速が速い投手はステップ脚の膝がつま先よりも前に出ていない」と述べていたのをお伝えしたかと思います。
更にいうと、ステップ脚が地面についたところから膝が動かずに固定されていることが良いとされています。
膝が曲がってしまうと、エネルギーを吸収してしまい、体幹までエネルギーが伝わっていかないのです。
ここからは筋肉の図を見ながら説明していきます。
並進運動の際には中殿筋を使います。ハムストリングスと呼ばれる筋群から連動して内転筋を使うことで中殿筋を働かせます。
内転筋・中殿筋が一緒に動くことで、上下に力が散ることなく、姿勢が保持出来ます。
この並進運動の場面では筋力を発揮することではなく姿勢を保持するために筋肉を使います。
ステップ脚で大事な筋肉は、膝を固定しておくために使われる中殿筋や梨状筋と呼ばれる筋肉です。
この筋肉が弱いと膝が固定できず体幹に力を伝えることが出来ないので速いボールは投げられません。
使う筋肉、使い方も理解した上で筋力トレーニングを行えばより効果が得られること間違いなしですね!
まとめ
実は私も球速アップチャレンジをしている時に下半身を使おうとしすぎていて逆に上手く使うことが出来ていませんでした。
軸足を曲げてみたり、体重移動の時に脚に力を入れてみたりしていましたが全く球速は上がりませんでした。
その時、
・上半身を速く回すこと
・歩幅をいつもより狭めること
をアドバイスしてもらったことがきっかけで全く上がらなかった球速が一気に5km/hアップしました。
・上半身を速く回すこと
→上半身を速く回す=土台(下半身)を固めないと上半身が速く回らないから勝手に膝が固定された
・歩幅をいつもより狭めること
→歩幅を狭めることでステップが浅くなり股関節が沈まなくなりパワーロスが減った
今回下半身の使い方について調べたことで、なぜこのアドバイスで球速が速くなったのかがわかりました。
下半身を使う上で大切な股関節の知識はこちらから!↓
最後までお読み頂きありがとうございました。
〈参考文献〉
・川村卓『野球の科学』東京:SBビジュアル新書、2021年
・坂井伸之『理論物理学が解明!究極の投球メカニズム』東京:株式会社 彩図社、2021年
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