いきなりですが、皆さんは
①140km/hで2000回転/分
②140km/hで2200回転/分
この2つのボール、どちらが初速と終速の差が小さいと思いますか?
②のほうが200回転分回転数が多いから、初速と終速の差が小さい!
と思いませんでしたか?
実は②の回転数が多いボールの方が初速と終速の差が大きいのです。
これには回転軸の傾きなども関わってくるので、一概には言えないのですが良い回転軸で回転数が多い、いわゆる良いストレートにはとくに
「回転数が多いと初速と終速の差が大きい」という原理が働きます。
間違った認識をしていた人からしたらどういう原理なのか疑問に思いますよね。
皆さんは野球の解説などで「回転数が多くて初速と終速の差がないキレのあるストレートですね。」などと言っているのを聞いたことはありませんか?
解説の方が言っているくらいなので間違った認識をしている方はたくさんいると思います。
ということで今回は「回転数が多いと初速と終速の差が大きい」の原理を詳しく説明していきます!
【 目次 】
回転数とは?
一般的に回転数とは1分間あたりにどれだけボールが回転するかを測定した数値のことです。(rpm=revolution per minute)
ブログでも何度か紹介しているテクニカルピッチやラプソードの回転数もこの基準で測定された数値になります。
つまり回転数というのは実際に手から放たれてミットに収まるまでの数字ではなく、正確には「回転速度」を測定した数値になります。
ボールの回転の役割
ナックルボールはほぼ無回転でも球速が0km/hということはないですよね。
このことからもわかるようにボールが回転することによって球速が出ているというわけではありません。
ボールの回転はボールの軌道に変化を与えるという役割を果たしています。
変化球で考えるとわかりやすいと思います。
スライダーを投げるときは、横の回転を多くかけると横に大きく曲がりますよね。
ストレートはきれいなバックスピンがかかっていると揚力が働き、縦に浮き上がるように変化します。
ボールの変化の秘密はマグヌス効果
マグヌス効果とは回転している物体に働く力の事を言います。
空気の流れとボールの回転が同じ方向にマグヌス効果が働きます。
このマグヌス効果は回転数が多ければ多いほど大きくなります。
このことから、きれいなバックスピンがかかったボールは回転すればするほど上方向に力が働き(揚力)、ホップするボールになることがわかります。
回転軸とは?
きれいなバックスピンのかかったボールというのは回転軸が0°に近い角度で回転しているボールのことです。
下の図は回転軸が0°のボールです。
一方、下の図は回転軸が30°ずれているボールです。
同じ球速、同じ回転数でも回転軸の傾きが悪いことで十分な揚力を受けられず縦変化の少ない打ちやすいボールになってしまいます。
「初速」と「終速」
「初速」とは投手の手からボールが放たれた直後の球速のことで、
「終速」とはキャッチャーミットに収まる直前の球速のことです。
手から放たれたボールは、重力や空気抵抗を受けながらキャッチャーミットに収まります。
つまり、「初速」よりも「終速」が速いということは絶対にありえないということです。
上の図は一回転しているうちにどれだけ進んでいるかをイメージで図にしてみたものです。(あくまでもイメージです。)
良いストレートは空気抵抗を受けやすいので減速しながらミットまで進んでいきます。
初速はスピードが速いので一回転するうちに進んでいる距離が長いです。
次第に空気抵抗を受けてボールが遅くなるのでミット手前でのほうが回転数が多くなります。
ミット手前でより縦の変化がかかり、手元でホップして浮き上がってくるような ストレートにみえるというわけです。
初速と終速の差がないボールの正体
初速と終速の差が大きいボールは良いストレートだと言ってきました。
逆に初速と終速の差が少ないボールも存在します。
それはジャイロ回転が多いボールです。
以下の図はジャイロ回転を表した図です。
このようにジャイロ回転するボールはボールの上と下の空気抵抗が全く同じになるため、マグヌス効果が働かずボールに変化が加わりません。
またこのジャイロ回転は空気抵抗が小さい為、ジャイロ回転の多いボールは初速と終速の差が少ないボールになります。
初速と終速の差は少ないのですが、縦にホップする変化をしないのでキレのある良いストレートとは言えないということです。
これがいわゆる初速と終速の差がないボールの正体だったのです。
浮き上がるストレート
きれいなバックスピンがかかっていて回転軸が良いボールはマグヌス効果を受けて、さらに空気抵抗を受けやすいので手元で十分に空気抵抗を受けて減速し、回転による縦変化を受けてふわっと浮き上がってくるように見えます。
これが「回転数が多く初速と終速の差が大きい」良いストレートの正体です。
良いストレートで空振りが取れるときにバッターがボールの下を振ってしまうのは縦に変化している良いストレートを投げられているからということが言えます。
また、真後ろにファウルを打たれたとき「タイミングが合っているぞ!」と言う声掛けを聞いたことがあると思うのですが、真後ろへのファウルはバッターが捉えたと思っても上に変化している分バットの芯を外すことが出来ているとも考えられるのでピッチャーはタイミングが合っていると思って焦る必要はないファウルではないでしょうか。
特に球速はそんなに出ていないはずなのにバッターが捉えられず真後ろにファウルを打たせてることが出来ているとしたら回転軸が良く、回転数が多い良いストレートを投げられているという可能性も高いと考えてもよいかもしれません。
18.44mで何回転するの?
実際にミットまでにボールが何回回転しているかを計算しているものがありました。
『彼らの球速を140km/hとして、バッテリー間を何回転するのか計算してみました(ちなみに、140km/hだと、0.47秒となります)。その結果が下記となります。
山本昌投手…25回転
藤川球児投手…21回転
松坂大輔投手…19回転
一般的なプロ野球投手…17回転』
(参照:http://blog.livedoor.jp/nagayume/archives/52255477.html)
平均のプロのピッチャーとその中でも一流と言われるストレートを投げるピッチャー、その差たったの2回転。
この2~4回転分でこんなにもストレートの変化に差が出るなんて驚きですよね。
山本昌さんはちょっと別格ですが…。
実際にはリリースポイントの位置などで18.44mの距離は人によって変わるのであくまでも目安の回転数になります。
私のボールでも計算してみました!
上の計測結果で計算した場合、ミットまで15回転しているという結果が出ました。
ちなみに115km/hのボールはリリースからミットまで、0.57秒。
ボールが遅くても、良い回転軸で回転数が多ければミットまでに回転による変化を加えられる時間が長くなる!というポジティブな捉え方も出来ますね!
最後に…
回転軸が良く、回転数が多いとボールが空気の抵抗を受けやすいので、「初速」と「終速」の差が大きくなる。ということを説明しました。
ボールが速いだけ、回転数が多いだけではストレートの質が良いとは言えないということもわかったかと思います。
球速がなかなか上がらない選手でも回転軸と回転数を改善していけば質の良いストレートになってくるのではないでしょうか?
プロの良いピッチャーでも、球速より良い回転軸と回転数に伴う縦の変化をより加えるために球速をわざと抑えたストレートを投げる投手もいるそうです。
ストレートの球質は人それぞれ。
どこを改善するかで、あなたのストレートの質がグンとよくなることもあるかもしれません。
この情報を上手く活用してピッチングに活かしていただければ幸いです。
最後までお読み頂きありがとうございました。
参考:
・お股ニキ 「ピッチング デザイン」、集英社、2020年3月
・川村卓、井脇毅「打者を打ち取るストレートの秘密」、 辰巳出版株式会社、2021年5月